もう随分前になります。私は一冊の小説を世に出しました。
ハードカバーの単行本で「百鬼夢幻」というタイトルでした。私が心の底からほれ込んだ、一人の絵描きが主人公でした。
絵描きの名前を河鍋暁斎といいます。
破天荒な人生を歩んだこの暁斎を主人公にした本は、妖怪の世界と人間たちの心のふれあいを主題とした話でした。
今でも、私はこの本が自分にとっての代表作であろうと信じています。
この話の続編をというお話も、出版社からありました。
しかし、どうしたものか、これまでその筆をとる機会がありませんでした。自分で納得のできる作品を書くために、どうしても絶好の機会を得ることが出来なかった所為であると言っておきましょう。
しかし、心の何処かに、またあの妖怪たちと人間の交じり合った世界を、違った形で作品にしてみたい衝動が湧いてきました。
結果から申しますと、それがホーリーメイデンとなるわけです。
しかし、この作品が結実するまでには、いろいろ紆余曲折がありました。
作品化に努力していただいた、編集のブレインナビの松田さんとメディアファクトリーの三坂編集長には、改めて謝辞を述べさせていただきます。
さて、こういう話をしたことや、既に作品を読んだ読者などは、もう気付いておられましょう。
まさにホーリーメイデンは百鬼夢幻の延長上に当る作品なのです。作者の立場から言わせていただくと、直接の続編というわけではありません。
実は、百鬼夢幻の続編としては、既に長年温めている、絵師月岡芳年を主人公に据えた連作短編の案が出来ており、こちらも必ず作品にまとめると心に誓っておる次第です。
しかし、ホーリーメイデンには、間違いなく百鬼夢幻のエスプリが受け継がれています。
少々消化不良な部分があることは、作者も認める次第ですが、とにかく、どうしても書きたかったことをぶち込んだ結果が、あのおもちゃ箱のような世界なのだと、ご理解ください。
主人公のヘレンのキャラクターを作るのには、何の苦労もありませんでした。
それは、この世に実在したヘレン・愛子・コンデルという女性の生き様を見ているうちに、こういう性格こそ彼女なのではないか、そんな感覚がどんどん湧いてきたからです。
少々ネタばらしになりますが、この後彼女(もちろん実在のヘレンです)は、英国からベルギーへ渡り留学をします。その帰りの船の中で、一人の若き欧州貴族に見初められ、彼と結婚することになります。
浅草の下町で育った、ガキ大将そのものであった少女は、ついに本物の貴族としてヨーロッパに嫁いでいくことになるのです。まさにマイフェアレディそのものの人生です。
彼女の生きた時代、日本、東京、そして消えていく江戸。それを彼女の碧の瞳は、どんな風に見ていたのか、それがこの先も描けていければ幸いであろうと思っています。
という訳で、是非続編を望む方は、メディアファクトリーの編集部まで、リクエストをお願いします。
この先、きっととんでもない大事件が彼女を待っているはずなんです、いや、実際に起こったのかな……
読者が、それをきちんと自分の目で確かめられる日が来ることを、祈っております。
では、皆さん、このサイトでホーリーメイデンの世界をより深く楽しんでください。
2002年晩夏 作者 敬白

