え? あたしも挨拶するの。やだ、どうしよう、ぼうっとしてたわ。
ううん、あの、あたしが加藤美七江です。えっと、女学館の一年生です。
ヘレンとは同級生で、変なもの見えちゃうので仲よくなりました。
……やだ、こんなこと言ったら、なんか誤解されちゃうかな。え? 本を読んでたら大丈夫ですって? そうなの九ちゃん?
おいらじゃなくて、あっちに挨拶しろ……?
あ、ごめんなさい!
ええと、ちゃんと説明すると、あたしとヘレンは、ひょんなことから狐退治、そう今ここにいる、霊孤の九ちゃんに、ひどい目に合わされたので、これを退治してやろうと言う事になって、気がついたらとんでもない事件に巻き込まれちゃったのでした。
それで、私とヘレンは、学校の同級生なんだけど、とっても気が合って、仲がよかったんです。その理由の一つに、二人とも幽霊とか見えちゃう、という体質っていうのかな、とにかくそれがあったんです。
だから、あたしが遭遇した現象が、すぐに妖怪の類の仕業だって判って、彼女に応援を頼んだんです。
あのね、本当はね、ヘレンのお父さんに助けてもらいたかったの。でも、ほら、皆さんも知ってるでしょ、ヘレンの性格。とにかく、気が短くて、あたしの話全部聞かないうちに動き出しちゃったのよね。
たぶん、今回の事件て、全部ヘレンの性格に起因していると思うのよね。
狐退治しようって言いだしたのはヘレンだったし、悪魔をやっつけようって言い出したのもヘレンだし、横浜まで行こうって言い出したのもヘレンだし、やだ、ほんとに全部ヘレンが言いだしっぺじゃない!
あれ、でもそう考えると、彼女が短気であったおかげで、この東京の危機に気付いたってことになるのかな?
そう思うと、ヘレンの短期もまんざら捨てたものじゃないってことになるのかなあ。
なんかそれ、論理的におかしい気がするわ。でも、結論は正しいわね。
やっぱり、ヘレンが走り回ったから、悪魔をやっつけられたってことになるのかしら。
あ、でも、その所為で、あたし死にかけたのよね。そう考えると、かなり複雑ねえ。
お父さんに借りた刀のおかげで助かったけど、あのまま悪魔に殺されちゃったら、加藤家はどうなっていたことか。まったく、よくまあ、こんな無茶に付き合ってるわよね、あたし。お父さんにばれたら、えらい騒ぎになるわよ。ほんと。
え? 何、九ちゃん。
黙っていれば判らない、美七江のおやじさんはぼんくらだから?
あんたに言われると、ムカッとくるけど、当ってるわね。
でもさ、よ〜く考えてみると、それもこれも、あんたが最初にあたしの袴なんかめくるからいけないんじゃないのかしら?
やっぱりあたしが巻き込まれた原因は、あれだと思ったりするわけよね。
あら? ちょっと九ちゃん! 何処に消えたのよ!
もう! 都合が悪くなるとすぐ消えるんだから、ちょっとヘレン! 九ちゃんのことちゃんとしつけてるの?
ねえ、ヘレンたら!

そんじゃ、ここからは、またおいらが解説をするんだな。
美七江のねえちゃんの家は、元大名家で、おいらが住んでいた九州の方の殿様の下屋敷のご近所さんだったんだぜ。
格は、おいらの殿様の方が上だったけどさ、加藤家ってのは、なんか昔大阪の豊臣の武将で有名だったらしいね。
ちょうどおいらが、那須に居た頃あった関が原って所での、でかい合戦のときに、徳川様に味方して領地とお城を貰ったんだってよ。
おいらは、よく知らないけど、何とかの七本槍の一本だとか言ってたなあ。でも、熊本に行ったのとは判別の加藤だよって説明してたっけ。
まあ、おいらあんまり大名のこと知らないんだな、本当は、ごめんよ。
今の加藤家は、武蔵野一円から生糸を買って、外国に輸出する仲買人をやってるんだな。でも、商売は、番頭さんとか使用人がやってるんで、美七江の親父さんは、一日中のんびりと家で盆栽やったり、刀磨いたり、お客と酒飲んだりしてるんだな。
結局、お殿様なんだね。おいらの屋敷の元の殿様も、毎日遊んでいたからね。


美七江のねえちゃんのおふくろさんて、実は不思議な人なんだぜ。知らなかっただろう!
おいら特別に聞いちゃったんだな。なんでも、佐賀の方の殿様の家の娘だったそうなんだけど、屋敷で飼っていた猫を自在に操れったっていうんだな。
そんな能力を持った人間、おいら、他に聞いた事が無いんだけど、ひょっとすると、妖怪を操れる血筋なのかもしれないなあ。
おいらとヘレン親分は、術で結ばれているけど、昔っから、狗神とか狼の霊とか、おいらより低級な狐を使う術者の家系ってのがあるんだ。
殿様の家で、そんな血筋ってのも変な話だけど、おいら、たぶんそれだと思うぜ。
だから、美七江の姉ちゃんが、おいらを見えたりするのも、その血のおかげだったりするかも。だって、ボンクラの親父さんは、おいらのことが見えてないからね。でも、太っ腹にかけては、たいしたもんだと思うぜ。
これ、内緒だけど、おいら親分と一緒にあの屋敷に遊びに行ったとき、掛け軸一本破っちゃったんだよな。
でも、美七江ねんちゃんの親父さんは、平気な顔だったねえ。狩野探幽って人の絵は安いのかなあ? って親分の親父さんに聞いたら、真っ青な顔して、家が一軒買えるよって教えてくれたもんな。
きっと、美七江のねえちゃんは、この親父さんの太っ腹と、おふくろさんの不思議な力を受け継いだんだとおいらは思うね。
まあ、そのうち美七江のねえちゃん自身が、これに気づくんじゃねえかな。
今から、ちょっと楽しみだね。


親分が悪魔を叩き斬ったとき、、不覚にもおいら、のびちまってたんだ。
だから、親分が振り回した刀の中身はちゃんと見ていないんだな。だけど、はっきりとあの気配は覚えているよ。全身が、ぞくっと震えたんだ。
あれは、妖怪の精気を封じる不思議な力をもった刀なんだってさ、真奈のねえちゃんがあとで教えてくれたよ。
昔ね、虎徹っている刀工が居たんだってさ。とにかく、斬れる刀を作らせたら、右に出るものが居なかったんだそうだけど、その人は、しまいには鬼神に頼み込んで、魂を刀に打ち込むようになったんだそうだよ。
そうやって出来上がったのは、どんな魔物でも斬ってしまう払魔の真刀っていう、美七江のねえちゃんの家に代々伝わる家宝なんだそうだ。
実はね、その後おいら、ある場所にいってこっそり聴いたことがあるんだな。
実はこの刀は、大小で役目が違うんだってさ。それと、もう一つ秘密があるのだけど、これは親分たちには言わない方がいいかもね。
かなりぎょっとすると思うから。でも、きっとそのうち、真奈のねえちゃんあたりが気付いちゃうかなあ。
まあ、おいらは黙って、見てるだけにしておこうっと。


本名     加藤美七江
生年月日  明治13年9月12日
身長     154cm
体重     48kg(公称)
(真奈の証言 美七江ちゃんて、きっといいもの食べてますのよお。だってお腹の…以下、不自然に消去されてます)
趣味     薙刀、剣術、百人一首、猫の蚤取り、読書、貝殻集め
嫌いなもの 蛇、とかげ、足の臭い男
好きなもの 甘いもの全般、錦絵、芝居見物


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