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Jun Hashimoto
| ホーリーメイデ ンシークレットストーリー1(その1) 一 梅雨の雲が、銀座の街をどんよりと覆っていた。 その日、ヘレンは岸田吟香の店の店先で、美七江と二人で、輸入品の化粧小物入れを見ていた。 そこに、よく聞きなれた声が飛び込んできた。 「先生、えらいこってす!」 汗びっしょりで駆け込んで来たのは、渋江保であった。 「あら渋江さん、今日先生は留守よ」 美七江が、眼鏡を指でずり上げながら渋江に言った。 「ええ!」 渋江の眼鏡は、逆に勝手にずり落ちていった。 「今日は、盲学校設立会の総会で、新橋に行ってるわよ。ちゃんと調べなさいよ」 ヘレンはそう言って渋江をかなり冷たい視線で見たが、実は自分たちも吟香が居ないのを知らずにやって来てしまったとは、口が裂けても言わない。 「こ、困ったでありますね。えんらい情報を掴んだんですけんど」 渋江が、本当に困ったという表情で言った。それを見て、ヘレンが言った。 「急がなくちゃいけない話なの?」 渋江が頷いた。 「もちろんでんす! 急がないと、大変なことになるでんす」 ヘレンが、にやっと笑って渋江の近付いた。それを見ながら、美七江が、内心であちゃあと呟いていた。こういう時、ヘレンが取る行動といえば……。 「じゃ、あたしがなんとかする! 話してよ」 渋江は、かなり躊躇したが、ヘレンのぎらぎら光る碧の瞳に見つめられていると、彼は蛇に睨まれた蛙ではないが、言うことを聞かずにいられなくなるようであった。 「じ、じつは、若松さんとは別の屋敷の工事現場に、悪魔教の祭壇らしき物が運ばれるようなのであります」 ヘレンと美七江が顔を見合わせた。 「それって、本当なら一大事じゃない! 若松邸の始末さえ付けられなくて困ってるのに!」 ヘレンが言うと、美七江が腕組みしながら渋江に訊いた。 「その祭壇て、今どこにあるの?」 「さっき、新橋の駅を出発した筈でんす。美七江さん。あ、今日のリボン綺麗でありますね」 何となく頬を赤らめながら渋江が言ったが、そんなことは完全に無視をして美七江はヘレンに言った。 「ねえ、白昼堂々と運んでいるんだったら、悪魔どもも妨害しても手出しできないんじゃないかな?」 ヘレンがぽんと手を叩いた。 「そうよね! この東京の真ん中で人狼に変身したりするのはまずいわよね。よっしゃ! ぶっ壊しに行きましょう!」 渋江が、ぎょっとした顔でヘレンを見た。 「へ、ヘレンさん、それはちょっとまずいんでねえでしょうか?」 「うっさいわね! 今は、真奈ちゃんが帰ってくるまで、少しでも敵の数を減らしておくべきなのよ! 問答無用なのだ。さあ、荷持つが何処を通っているか教えなさい!」 ヘレンは、渋江の襟をぐいっと掴んだ。これでは、まるで脅迫だ。いや、実際に脅かしているのだけど。 「あわわ、内幸町から、日比谷のほうに向かう筈でんす」 「サンキュー、渋江さんの情報収集って、ほんと頼りになるわあ」 渋江の襟をぱっと離すなり、ヘレンは店から駆け出していた。 「ああ、ヘレン待ってよ! 渋江さん、髪乱れてるわよ。それじゃ、女性にもてませんわよ。じゃ、行ってきます!」 美奈江は、渋江にぺこっと頭を下げると、ヘレンを追って駆け出した。 それを見送って渋江は、大きく首を振った。 「これは大事になる予感がするでんす」 概ねこういう予感は当るものである。 ヘレンと美奈江は、人力車を飛ばし、渋江の言った荷物らしきものを運ぶ荷車を探しまわった。 銀座の店を出てから一時間ほどたった頃、ようやくそれらしきものを、内幸町の手前で発見した。 荷物を確認したところで、二人は人力車を降り、電信柱の影でそれを見つめた。 「思ったより手前に居たのね」 ヘレンが言うと、美七江も頷いた。 「あんな大きな荷物じゃ、時間も掛かるわ。でも、どうやって壊すの?」 すると、それまでヘレンの着物の袖の中に居た狐の九が首をむくっと出して美七江に言った。 「おいらが、あの荷車の車輪を壊すよ! そうすれば、ひっくり返って壊れるんじゃないかな」 それは、世間の迷惑……、と美七江が言おうとしたときには、既にヘレンが叫んでいた。 「それで行こう! やっつけて来なさい! 九ちゃん」 美七江が、大慌てでヘレンの袖を引っ張ったが、実体の無い九は、するっと驚くべき速さでそこを抜け出していた。 「ちょ、ちょっと九ちゃん! 普通の人傷つけちゃ駄目よ!」 美七江が怒鳴ると、九は八本の尻尾をぴょこっと振って了解の合図を寄越した。 九は、全身を鋼のようにして、荷車に突進した。ところが、そこに激突する寸前、何か黒い影が横から現れ、彼の体を遮り、捕まえた。 「うわあ!」 急に動きを止められた九が悲鳴をあげた。 「何よあれ!」 九の身体を掴みとめた物体(?)を見たヘレンと美七江は目を真ん丸にした。 それは見た事もない異形のものであった。人狼でも、悪魔でもない、不気味に歪んだ四肢を持つ黒い存在であった。 聡明な美奈江は、すぐにそいつの正体というか、容姿に関し思い至った。 「新手の西洋妖怪よ! あたしたちの知らない奴だから、正体がはっきり見えないのよ! つまり、あれは人狼とかと違って実態のない妖怪よ!」 渋江の学説(?)によれば、いわゆる普通の人間に見えない形の妖怪、悪魔の類のうち、彼女たちの想像力が及ばぬ存在は、はっきりした形を持てない。というか、彼女たちにその姿を確認することが出来ないのだ。 しかし、これが西洋の街中なら、きっとあの黒い存在ははっきりとした姿を見せたはずだ。それは多数の人間の想念によって容姿が形成されるからだ。 つまり、こいつの事を知っている日本人が周囲に誰もいないから、こいつの正体の手掛かりになるべきものが何も見えないのだ。 その黒い存在は、なんとも形容できない不思議な気配を振りまいたまま、九をその両腕、または両の前脚で抱え込み、いきなり走り出した。いや、駆け出したのか、とにかく道を前方に進み始めた。 ヘレンと美七江も、大急ぎでそれを追いかけた。 「ちょっと! 九をどうするつもりよ!」 「は、早いわ!」 黒い影は、ひゅんひゅんという感じで人の波を掻き分け進むが、その姿は、明らかにヘレンと美七江以外には見えていない。 人々の中には、頬に風を感じたものも居たようだが、九を抱えて走り異形の姿を見ることのできたものは居ないようであった。 「待ちなさい!」 ヘレンと美奈江は必死で追うのだが、その距離は縮まらない。 町を行く人々は、血相を変えた少女二人が凄い勢いで駆けていくのを、とても不思議そうに見送っていた。 「お、親分! 助けて!」 普段は強がる九も、さすがに不安であるらしく、素直に助けを求め叫んでいた。 しかし、果たして、自分たちに九を救う事ができるのか、ヘレンには判らなかった。 だが、自分の子分を救うため、ヘレンは懸命に謎の影を追いつづけるのだった。 (つづく) え? これって連載だったの? という訳で、早く続きが読みたい人は、BBSに書き込もうね。それと、本編の続編を早く出してくださいって、メディアファクトリーにハガキを出してね(^^) |
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