「お○ゃれ関係」のテーマ音楽が流れる。提供の「SHI○EIDO」の文字が大きく画面に映り、それが消えるとスタジオ内に切り替わる。見学者(若い女性たち)の拍手。
古勝伊知郎(以下古勝):「さあ今夜のゲストは若いですよ〜」
渡部真里菜(以下渡部):「なんかその言い方いやらしいですねえ(笑)若い女性みたい」
古勝:「いやそうじゃないんですけどね、ほんとに女性と同じくらい、いやそれより美しい方でございます。今日のゲストは歌舞伎俳優の松嶋隠岐さんですどうぞ!!」
音楽が流れ拍手に迎えられて着流し姿の隠岐がおじぎをしながら登場。桜色の芭蕉布でつくった着物とそろいの羽織、白足袋。カメラが全身をなめる。
古勝:「(一歩引いて隠岐をながめながら)春ですね〜。ここまでピンクの似合う男性というのも、日本じゃめずらしいですよね〜」
隠岐:「おおきに」
古勝:「また"おおきに"っていうこの京都弁がいいですねぇ。たおやかで」
渡部:「どうぞ、お座りください」
三人それぞれスツールに腰をおろす。
古勝:「隠岐さんは見てのとおりたいへんお若くていらっしゃいますけれども失礼ですがおいくつでいらっしゃいますか?」
隠岐:「十七になりました」
おおーと観客がざわめく。苦笑する隠岐のアップ。
古勝:「この若さで、ずいぶんと歌舞伎の女形の大役をやってらっしゃるんですよね。私けっこう詳しいんですけどー、阿古屋とか雪姫とか普通は絶対ある程度の年いかないとやれない役なんですけれども、隠岐さんはすでにもうつとめていて歌舞伎界のシンデレラと言われてるんですよ」
渡部:「はあシンデレラですかー。すごいなぁ」
画面に数枚の舞台写真がスライド式に切り替わる。
古勝:「そうこれですこれです」
渡部:「うわ、きれいですね〜。何の役ですか?」
隠岐:「それは『阿古屋』どす。一年前、義父の代役でやったときの写真です」
スタジオ内に戻る。
古勝:「お義父さんといいますとあの菱川涼之助さんですよね。ここにプロフィールがありますけど、隠岐さんは普通のお家にお生まれになったんですがこの阿古屋の代役が認められて涼之助さんのご養子になられたという…」
隠岐:「はい」
古勝:「いったい全体どうして歌舞伎の世界に足を踏み入れたんですか?」
隠岐:「偶然なんですけど、私の習っていた京舞の先生に、うちの師匠の松嶋錦之助の妹さんが習いにきはって、そのご縁で、弟子入りすることになったんどす」
渡部:「それは偶然だ…」
古勝:「運命の出会いってやつですね?」
隠岐:「はあ…」
カットされて画面が切り替わる。お客の一人のギャルっぽい女がマイクを持ってしゃべる。
ギャルっぽい女:「もしよかったら、松嶋隠岐さんのバッグの中を見せてください」
画面にテロップが出る(『17歳人気女形のバッグの中身は…?』)。
古勝:「すいませんねえこういう番組なんですよ。よろしいですか?」
隠岐:「はいどうぞ」
隠岐は持たされていた着物とおそろいの巾着袋を渡す。
古勝:「では失礼して…あれ、何も入ってないじゃないですか。携帯電話と…これは何でしょう、タクシー券だ。ほらもうからっぽですよ。財布もない」
渡辺:「ほんとだー。これだけなんですか?いつも」
古勝:「こういうコーナーがあることを知って警戒してきたんじゃないですか?」
隠岐:「いえほんまは、普段は手ぶらなんです。今日は特別にこの巾着を持ってきただけで」
古勝:「手ぶらじゃ困るでしょう。財布とか手帳とかハンカチとかちり紙とか、いるでしょう」
隠岐:「お金とかスケジュールとかそういうのん全部おかみさんと師匠に任せてますから。それにてぬぐいやらは懐に入れてますし」
古勝:「でもお金なかったら何かほしいものがあるときどうするの」
隠岐:「お兄さんに『買って』って言えば…あ、お兄さんやなかった、うちの師匠に。だいたい常に一緒に行動してますから、子供が親に物買うてもらうみたいにして」
古勝:「はあー…!でもそれじゃ、お兄さんに内緒で買い物できないじゃないですか。お年頃ですから、ねえ? イケナイ本とか雑誌とか手に入れたいときあるでしょう。どうするんですかそんなときは」
隠岐:「正直に言います」
渡部:「ええっ!?それで、お師匠さんは買ってくださるんですか」
隠岐:「言うたことないですけど、たぶんめちゃくちゃ怒られますね」
古勝:「それはかわいそうだなあ」
カットされて画面が切り替わる。お客の一人のロングヘアの女がマイクを持って質問する。
ロングヘアの女:「あの、錦之助さんの妹さんと仲がいいという噂を聞いたんですけれどもー、本当ですか?」
古勝:「仲がいいというのはこれはまた微妙な言い方ですねえ。どうなんでしょうか」
ここで隠岐の顔がアップになり、CMが入る(CM内容:プ○ウディア、ピ○ヌ、ホワ○ティア)。CM終わり、スタジオ内に戻る。さっきの客の質問から始まる。
ロングヘアの女:「あの、錦之助さんの妹さんと仲がいいという噂を聞いたんですけれどもー、本当ですか?」
古勝:「仲がいいというのはこれはまた微妙な言い方ですねえ。どうなんでしょうか」
隠岐:「聡子ちゃんとはほんまに仲よろしおすえ」
古勝:「おお。公認しましたねぇ」
隠岐:「師匠と聡子ちゃんやのうて、私と聡子ちゃんのほうがほんまの兄妹みたいやてよう言われます。お兄さんとケンカしたときは必ず私の味方してくれるし。聡子ちゃんがいてへんかったら今ごろ京都に帰ってるかもわかりまへんわ」
渡部:「それは、異性として意識してるっていうことですか…?」
隠岐:「…同性やとは思てませんけど」
古勝:「うまいなあ。なんか質問のはぐらかし方うまくありません?まだひとつもぼろが出ないもんなあ。でも、淡い恋心みたいなものは抱いてるんでしょう?」
隠岐:「さあどないやろ」
古勝:「…なんか今の表情見てると、まだ恋とかしてほしくないね!」
渡部:「古勝さん…(笑)」
古勝:「だってかわいいんだもん、ほんとに。失礼ですけど男とは思えないですもん」
隠岐:「そうですか?」
古勝:「だってふつう17にもなると男って、ちょっと脂っぽくなってヒゲとか生えたり首から肩のあたりがたくましくなったりするじゃないですか。それが、見てくださいこのすべすべした頬」
隠岐の顔がアップになる
隠岐:「(恥ずかしそうに)やめてください」
古勝:「資○堂のCMに出て欲しいくらいですよ」
渡部:「あーそれいい!似合いそう」
隠岐:「お化粧品のCMはまだやらしてもろたことおへんのどすけど、結婚式場のポスターはやりました」
古勝:「え、それは、花嫁さん姿で?」
隠岐:「へえ、白無垢で、こうお盃持って…」
渡部:「三々九度ですね」
古勝:「はっきり言って花嫁姿の隠岐さんなんて、そこらへんの中途半端なモデルよりずっときれいでしょうね。ピュアーな感じもあるし…」
渡部:「なんか熱入ってますね、古勝さん(笑)」
カットされて画面が切り替わる。客のひとりのショートヘアの女性がマイクを持って質問する。
ショートヘアの女性:「お師匠さんの松嶋錦之助さんと同じベッドに寝てるっていうのは本当ですか」
隠岐:「えーっ、そないなこと、どこで聞かはったんどすか?」
古勝:「うわっ。じゃ本当なんですか?」
隠岐:「へえ…」
渡部:「うそ〜(目をまんまるくする)」
隠岐:「けどな、それは、そうするしか仕方あらへんのどすわ。マンションやさかい余計な部屋はないし、ベッド置く場所もないし、押入れも布団もないさかいに」
古勝:「あのちょっと確認しますけど、同じベッドっていうのは同じ種類のベッドって意味ではなくて、ひとつのベッドに二人で寝てらっしゃるっていう意味ですよねえ?」
隠岐:「なんやいやらしなぁその言い方…(笑)」
古勝:「ごめんなさい失礼しました、でも、ねえ? 気になるじゃないですか」
隠岐:「気にせんといてください。べつに、男二人、寝てたかてどうってこともおへんやろ?」
古勝:「いやふつうの男ならそうですよ。けどこんな天使のような美少年が隣に寝てたら錦之助さんだってどういう気がおこってくるともこないとも限らないわけで…」
隠岐:「(笑)そんなことあるわけないやおへんか」
古勝:「でもさっきうろたえてらっしゃいましたよね?」
隠岐:「それは家の人しか知らんことを言わはったさかいびっくりしただけどす」
古勝:「へーえそうですかー…それでは情報提供者の方、どうぞ!」
隠岐:「え?」
カメラが隠岐が振り返った視線の先を追う。スタジオ内にスーツ姿の松嶋錦之助が入ってくる。テロップで名前が出る。
錦之助:「どうも、今晩は」
隠岐:「いややなあ、もう。お稽古行かはったんと違うん」
錦之助:「行くわけないだろ」
渡部:「こちらへどうぞ」
古勝:「ようこそお越しくださいました。(隠岐に)すみませんねえ内緒にしてまして」
隠岐:「ほんまや。さっき、『じゃああとで迎えにくる』言うて帰って行かはったからうちすっかり信じてたのに…」
錦之助:「(隠岐に)迷惑そうですね」
隠岐:「そないなことあらしまへん」
渡部:「今、錦之助さんと隠岐さんが一緒に寝ていらっしゃるということについてちょっとアヤシイんではないかという話をしていたんですけど…」
錦之助:「残念ですがとても皆様のご期待に添えるようなことは(笑)」
古勝:「ほんとですか?」
錦之助:「ええ、母親が赤ん坊と寝てるような感じで…」
古勝:「へーえ。まあいいや。ですけどプライベートだけじゃなく歌舞伎の舞台でもお二人は夫婦役、恋人役が多いわけでしょう? こんなかわいい顔でずっと見つめられてたりしたら、自然とこう、愛着が湧いてくるということは…?」
錦之助:「外見と中身が全然違いますからね、隠岐は」
渡部:「えっそれは…どういうことですか?」
錦之助:「こう見えても薄情なんですよ。このあいだ写真集を出したんですけどね」
古勝:「これですね?」
画面に写真集のアップ(『松嶋隠岐 舞台写真集』撮影:宮城エイジ ¥3,500)。
錦之助:「ええ、それを作るときに、写真家の方が候補の写真を何枚か持ってきてくださって、その中から写真集に載せるのを選ぶんですけど、こいつ、俺が一緒に写ってるのは絶対選ばないんですよ」
隠岐:「だって変な写真ばっかりなんやもん」
錦之助:「おっ、今、宮城さんの写真を変な写真って言ったな」
隠岐:「なんでそないな言い方…ひどいわ、もう」
古勝:「(ページをめくりながら)そういえば錦之助さんが写ってるのはありませんねえ。錦四郎さんと一緒のはありますけど…」
錦之助:「でしょ? こいつ俺のこと嫌いですから」
隠岐:「ほんまに大嫌いどす。お兄さん、すっごいうるさいんどすえ。あれはダメこれはダメて自分の腕の中に囲い込んで、家から一歩出ることもできひんのやもん。それにいけずやし。(カメラに向かって)世の中の女の人、だまされんようにしてください。舞台の上だけではええ男のふりしてますけど、この人と結婚してもろくなことありまへんえ」
錦之助:「何言ってんだよ(笑)」
古勝:「なんか、隠岐さん急におしゃべりになってません?」
錦之助:「猫っかぶりだから」
渡部:「いつもはおしゃべりなんですか?」
錦之助:「口に戸を立てたいくらいです」
隠岐:「もう帰って! 家ではいつも黙ってるくせにこんなときばっかり余計なこと言わはって、かなんわ」
古勝:「おもしろいですねー(笑)今日はほんとにありがとうございました。松嶋錦之助さんでしたー!」
客席からの拍手に送られて、錦之助は会釈をしながら退場。その後急に画面が切り替わり、『16小節のLove Song』というタイトル映像と音楽が流れる。
ナレーション:「見つめては言えない言葉がある。見つめられては言えない言葉がある(以下略)」
古勝:「ある方から隠岐さんにメッセージをいただいております。どなたかわかりますか?」
隠岐:「うーん、心当たりが多すぎて…」
古勝:「女性の方です」
隠岐:「誰やろ。(宛名の字を見て)わかりまへん」
古勝:「隠岐さんの踊りの師匠、人間国宝の梅原茂波さんです」
隠岐:「うそー!先生字ぃ書けはるんや」
渡部:「(笑)ちょっと隠岐さん…」
古勝:「梅原茂波さんには、ずいぶん小さい頃から舞をならっておられるんですよね」
隠岐:「へえ、手ほどきは六つぐらいどしたけどそれより小さいときから稽古場で遊ばしてもろてましたよって…」
古勝:「じゃあもう親御さんのような存在?」
隠岐:「ええ、まあ。でも手紙くれはったことなんて一度も…ていうか、物書いてはるとこ見たことないわ」
古勝:「そうですかー、それでは読ませていただきます」
画面にテロップが映る(『人間国宝・梅原茂波師からの手紙』)。
古勝:「『隠岐様。お元気ですか。どうしてこのごろうちに来ないのですか。京都の芝居に出ているときくらい顔を見せてください。私は老い先短いので孝行するなら今のうちです。毎日稽古はしていますか。踊り下手になったんやないやろか。お芝居もいいけど踊りもちゃんとやらないけません。一日なまけると取り戻すのが大変です。いま隠岐は役者で人気があってええけど、役者は芸です。人気やありまへん。勘違いしないようにせんと、これからさき年とったときに困ります。それではお兄さんの言うことをよく聞いて健康に気をつけて牛乳を飲んで大きくなるんやで。ひまができたら京都の桜見においで。 梅原茂波』
画面、隠岐のアップ。うなずきながら聞いている。ときどきクスリと笑う。
隠岐:「どうもおおきに、ありがとさんでございます(丁寧に頭を下げる)」
渡部:「すごく何ていうか愛の感じられるお手紙ですね」
隠岐:「ふだん字ぃ書かへん人なんで、ほんとに嬉しいです」
古勝:「『役者は芸です。人気やありまへん』…なんかずしっときますよね。人間国宝の方のお言葉はさすが重みがあるというか」
隠岐:「孝行するなら今のうちやて書いてありましたけど、ほんまに早く孝行したいですね。来月京都行きますので」
古勝:「それではこれ、どうぞ」
隠岐:「おおきに」
古勝が手紙の入った封筒を隠岐に渡すと客席から拍手。
古勝:「さあ番組も終わりの時間が近づいてきましたけれどもご感想は?」
隠岐:「なんやあっという間でした。楽しかったです」
渡部:「来月は京都ってさっきおっしゃってましたけど…」
隠岐:「はい、京都の河原座で二日から、『忠臣蔵』のお軽をつとめさせていただきますので、ぜひお運びください」
古勝:「お軽ですか、これはまた大役ですねえ。お稽古でお忙しいところを本日はどうもありがとうございました」
隠岐:「いえこちらこそ」
古勝:「今日のゲスト、松嶋隠岐さんでした!」
番組のテーマ曲をバックに提供が映り、「この番組は資○堂の提供でお送りいたしました」というアナウンサーの声が流れる。
※この文章はフィクションです。実在のいかなる人物、会社、テレビ番組にも関係ありません。でも古○さんと渡○さんのファンの方、似てなくてごめんなさい。
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